ウィキペディア日本語版に関するトピックを中心にやっていきます。


本稿では、フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』日本語版で行われている記事の削除について解説する。


はじめに

記事の削除を行う権限保持者

ウィキペディア日本語版には、記事の削除や投稿ブロックなどを行う管理者50人弱と、記事の削除のみを行う削除者数人がいる。これらの権限保持者も一般利用者として参加をはじめ、立候補と投票資格を有する利用者による投票を経て信任される。権限を付与されたあとに、管理業務と編集のどちらにウエートを置くかは人それぞれであるが、厳密には「管理者も利用者のうちですから、他の利用者と同様、執筆・編集が活動の中心となることが望まれます。」とされている。
権限保持者に任期の定めはないが、管理者の場合、3か月間活動がないと自動退任の対象となる。それ以外では、度重なるミスや不適切な判断、対話姿勢の悪さなどがあると辞任に追い込まれたり、解任動議(削除者の場合、権限除去提案)を出され、投票の結果によっては解任されることもある。それゆえ、一般利用者とくらべて規律正しく模範的立場にあるべきと考えられている。
しかしながら、権限保持者を一般利用者が逆らえない権力者のように恐れたり、その逆に敬意を忘れて方針等への不満のはけ口にするのは、勘違いでありナンセンスである。なお、あくまでもボランティアである権限保持者には、「法務費用援助プログラム」といった制度が用意されているが、これは一般利用者には一切適用されない。

メディアおよびコミュニティとしての性質

一般的には、ウィキペディアをネット上で開放された自由な空間であり、個人主義に則った公共性のあるメディアのように思われがちであるが、実際には教義とも言える「方針とガイドライン」や「合意形成」に従い、秩序ある繁栄の道を歩むことを目的としているため、コミュニティとしては宗教団体に近いものと考えたほうがよい。なお、ウィキペディアは米国に本部があるウィキメディア財団が運営しているが、日本語版はあっても日本国内には財団の支部や窓口は設けられてない。
その理由として、ウィキペディア日本語版の最古参管理者であるTomosは、ある国に支部を設けることによって、「政府から支部に圧力がかかったとき、財団は手出しできなくなる。」と述べている*1。裏を返せば、多民族国家である米国政府の一派から財団本部に対し、民族的な圧力をかけられる可能性があるのは否定できない。結果として、「ウィキペディアでは検閲は行われません」と謳いながらも、表現の自由知る権利はかなり制限されており、寄稿の際に「信頼できる情報源」とされる出典を明示しても、利用者自らの思想、推論などで脚色することは御法度である(「中立的な観点」も参照されたし)。
もっとも、信頼できる情報源とは大雑把に言うと、自費出版の書籍や同人誌機関紙などを除外した、利益の競合を前提とするメディアが主体になるため、その世界の偏向、対立・論争がそのまま持ち込まれ、絶えず編集合戦や利用者間の言い争いが起きている。そのようなウィキペディア内での紛争を早期解決させるために、厳格な方針やガイドライン、過去の合意形成が機能している面もある。
また、アクティブな権限保持者だけでは管理業務が追い付かないため、その補助を買って出る自警団とも言われるサポーターの存在は大きい。とにかく、ネットマナーや一般常識だけでは通用しないロジックを持つコミュニティではあるが、自己保全にも繋がるルールの意味を飲み込めず、「いつまでも納得しない」ほうが不適合的存在と言える。ただし、しばしば見られる理論武装としてのルールの曲解、悪用を見抜いて、コミュニティの意見を仰ぐことも大事である。

記事が削除される理由

削除には記事そのものを削除する全削除(削除とだけ言う場合、これを指す)と、更新されていった版の一部を削除する版指定削除または特定版削除があり、版の更新の際に記述を削ることは削除ではなく除去と区別される。版の一部を削除するのは、法的リスクがあるなど有害な内容とみなされるケースであり、それとは違い最新の版に反映させず除去で済まされるのは、削除を前提として暫定的に行われることもあれば、有害とは言えないものの不要と判断されたケースがほとんどである。ちなみに、除去されただけでは過去の版として容易にアクセスでき、リンクを用いたりarchive.is等を利用し手動によるアーカイビングを行うなどして、ネット中に拡散させることも可能である。
記事が削除された理由は、プライバシーの問題を考慮し明確にしないなどの例外を除いて、削除記録に残される。削除に値するすべての理由は一般論ではなく、「削除の方針」とさらにリンク先となっている関連する方針・ガイドラインの基準がもとになる。とはいえ、気に入らない記事に不備がないかと粗捜しをして、前述のルールの曲解、悪用よって削除を主張する勢力もいるため、ポジティブな調査を行いながら存続を主張する勢力と日常的に対立している。なお、審議の結果、存続となった記事のノートには基本的に審議の場へのリンクが貼られ、削除が検討されたことが示される。詳細は「記事の内容についての方針」や「記事の内容についてのガイドライン」、削除依頼での審議を参照されたし。よくある理由として以下のようなケースがある。

特筆性の問題

  • 人物、組織、その他の名称が、ネットで検索したり図書館で調べても見つからない。見つかっても信頼できる情報源に該当しない掲示板やSNS、個人サイト、広告などに限られている。
  • 新聞等で掲載されたがローカルな話題であったり、トピックの主題として取り上げられていない(たとえば鳥インフルエンザ騒ぎの最中に、取材に応じた養鶏場の経営者でしかないなど)。
  • 人物の肩書きに対して実績や偉勲がなかったり、複数の信頼できる情報源に取り上げられない。特筆性が認められるグループの一員ではあるが、単独では著名な活動歴がない人物。
  • 有名であっても泡沫候補ミニ政党の代表でしかなかったり、国会議員、都道府県知事、政令指定都市・中核市・特例市・特別区の首長となった経歴を持たない地方議員等の政治家。
  • 特筆性が認められる対象と繋がりや関係があるというだけの人物、組織等。複数の信頼できる情報源に取り上げられたが、事件の被疑者や弁護人、被害者、家族などでしかない人物。
これらのケースでは、削除と再作成が繰り返されることで「作成保護(同じタイトルでは作成不可能)」になることがあるが、そのような措置を逃れて記事のタイトルを変えるなどしても、監視する側としては想定内なので速やかに削除されている。本人や関係者が功利的な記事を作成することは、「自分自身の記事をつくらない」に反するばかりでなく、第三者による善意であっても宣伝とみなされるので注意が必要である。
ウィキペディアには、ウィキペディアタウンといった地域活性化を狙った取り組みもあるが、いわゆる嫌儲と言える、宣伝、売名行為を嫌う利用者が管理者にもいるので、誇大的な表現は避けなければならない。なお、特筆性さえ認められていれば、本人や組織がSNSやブログ等で発信した自画自賛的な内容も、エピソードとして加筆の対象になることはよくある。

独自研究と検証可能性

  • 真実であるかどうかに関係なく、自分の目で確かめたというだけであり、検証不可能な内容。一定の調査をした結果、架空(ぼくのかんがえた○○)であるか悪戯としか考えられないもの。
  • 掲示板やブログなどネット上の見解でしかなく、それ以外にソースがない。いくつかの文献を参考に書かれていても、諸説の間を取って整理されてしまい、利用者の私論でしかないもの。
  • テレビやラジオで放送されたので広く知られているはずだ、という一般化によるもの。何かで見たか聞いた記憶があるもののソースが不明で、調べ直すつもりもないような無責任な内容。
検証できない記述は部分的に除去されるだけでなく、除去すると記事の定義しか残らないようなケースでは削除の対象になりやすい。出典が明示されていなくても特筆性が認められ、編集対応可能として他の利用者により存続を主張されることもあるが、あくまでも善意による調査に頼るしかない。しかし、そういった特筆性に関する調査は、記事を書いたり存続を主張する側だけでなく、削除を主張する側にも求められているため、両方の義務である。
出典として直接使えないようなネット上の情報でも、そこから新聞による報道が推定できるケースでは、その日付を頼りに新聞縮刷版等で確認した上で、出典として用いることは可能である。その場合、ネット上で検証できなくても問題にされることはない。また、テレビやラジオで見たり聞いたりした内容であっても、番組の公式ページや番組情報サイトで、ある程度の概要や有意な言及が確認できれば、それを出典にすることも可能と考えられる。
なお、ジャンルによっては出典なしの記述が黙認されているケースもあるが、だからといって真似をすると「荒らし」とみなされることもある。詳細は「独自研究は載せない」や「検証可能性」を参照されたし。

異質な記事や単独記事の濫造

  • 名簿、名鑑、用語用例、辞書的な内容。ソースによって簡潔にまとめられている情報の劣化コピーにしかなっていないもの。ニュース速報をまとめただけの独立記事としては早計な内容。
  • 他の項目から無暗に切り取り私的にまとめたスクラップブックのようなもの。情報の無差別な収集、合成。イベントや活動の予定、結果などを逐一報告するためのプレスリリース的なもの。
特筆性や検証可能性に問題があるとは言い切れないケースでも、加筆がなく「スタブ」と呼ばれる辞書的な状態が続いていると、削除の対象にされることがある。例として阿部定事件が「特筆すべきとは思えないローカルニュース。」とされ、現役の管理者が削除を依頼したケースがあった(当時の版)。審議では反対意見が殺到したため記事は存続となったが、この事件をもとにした作品が数多く存在することも十分特筆性の証明になる。
百科事典的とは言えない情報の収集についてウィキメディア財団では、データベース作成に適している「ウィキソース」や「ウィキニュース」などのプロジェクトが用意されているので、これらと区別してウィキペディアの趣旨を理解することが求められている。詳細は「ウィキペディアは何ではないか」や「独立記事作成の目安」、「ページの分割と統合」を参照されたし。

著作権やプライバシーなどの法的問題

著作権侵害
ウィキペディア日本語版では、「著作権問題」という黎明期にまとめられた文書がある。これを噛み砕いて説明することよりも、法解釈が揺れて議論が拡散、見通しが悪くなっているのが現状である。文化庁著作権なるほど質問箱などを参考にするのもいいが、良い意味で安全側に倒すケースでは鵜呑みにしてばかりはいられない。著作権に関しては最新の専門書による例解を参考にするなどして、ウィキペディア内での既成事実にしがみつくガラパゴス化への道は避けるべきである。
最近では外部からのコピー・アンド・ペーストであるから「何が何でも削除」というのは、悪い意味での安全側に倒すケースとされ通用しにくくなってきている。人物の略歴や組織の沿革等として公表されているもので事実の羅列でしかない内容は、百科事典の質の意味で気になったとしても編集対応で十分であり、削除するまでもない事例として扱われる傾向がある。
帰属表示、履歴継承のないウィキペディア内でのコピーについては、クリエイティブ・コモンズGFDLデュアルライセンス(「著作権」および「ライセンス更新」も参照されたし)違反なので削除の対象になる。また、「翻訳のガイドライン#機械翻訳」で述べられているように機械翻訳は質の面でも問題視されやすい。
プライバシー侵害・名誉毀損・侮辱
  • 週刊誌やスポーツ紙などが報じたゴシップ不祥事の類で、社会的制裁以上の失墜には繋がっていない出来事。逮捕された事実をもって被疑者の段階から犯罪者呼ばわりする内容。
  • 一般に公表されていない本名や生年月日、出身地、学歴、経歴、家族の氏名、その他の個人情報、プライバシーの暴露。明らかに特筆性に欠ける私人、一般人に関することすべて。
プライバシーの問題は、特筆性に大きく関わっていると考えられる。
識別可能な人物の写真の利用方針#財産権としての肖像権 (パブリシティ権)」では、「一般的に、社会の正当な関心の対象となる著名人や、自ら大衆の関心を集める職業を選択した芸能人等については、肖像権の保護が制限されるとされています。」「一方で、肖像に顧客吸引力を持つ著名人には、肖像から生じる経済的利益・価値を排他的に支配する権利が認められています。このような権利をパブリシティ権と言います。」と述べられているが、特筆性との関係をわかりやすく説明しているので、あてはめてみることによって記事を書く上でも目安となる。
マスメディアに報じられても私人であれば、特定の個人を識別可能な個人情報を書くことはできない。また、特筆性の有無に関らず、信頼できる情報源による検証可能性を満たさない誹謗は中傷とみなすしかない。
週刊誌などが名誉棄損で提訴されることは珍しくないが、そのため、信頼できる情報源から除外される傾向を招いている。「名誉毀損」で述べられているが、「寄稿者自身の責任」で提訴に応じる可能性があることにも留意する必要がある。基本的には「存命人物の伝記」を順守していれば、自分の身を守ることは十分できるので心配無用である。
もっとも、「存命人物の伝記#当人はプライバシー尊重を望んでいると推定する」では、「もし、ある記述や事件が有名で本人の業績にとって重要で記載するに値するものであり、信頼できる公表済みの情報源できちんと文書化されているものなら、たとえ否定的なもので当の本人が嫌がろうと、記事に含めるにふさわしいでしょう。」とされており、「削除の方針#ケース B-2:プライバシー問題に関して」でも「著名人の記事内で、著名活動に多大な影響を与えたとは考えられない逮捕歴・裁判歴・個人的情報など(例:大学教授の記事で、車庫法違反で罰金の有罪判決を受けたという事実を記載してはいけません。記載された場合削除の対象になります)。」とあるので、ネガティブな内容であっても除去や削除には応じない大義名分が立つこともある。
なお、ヘイトスピーチや不祥事を晒すことを参加の動機、目的とするのは、法的な問題以外に倫理的な面で歓迎されないので、何となく黙認されているように見えても一般論として慎むべきと考えられる。
ところで、ネットにおける削除に関連して盛んに言われている忘れられる権利について、小向太郎(日本大学危機管理学部教授)は以下のように述べている。
削除の可否が裁判などで争われた場合には、プライバシー侵害や名誉毀損(きそん)などの権利侵害があるか判断すれば十分で、今の法律の枠組みで対応できる。権利侵害の有無とは関係なしに、一定の期間がたったら本人の希望に基づいて個人情報を消去できるといった一般的な規定を設けることに意義は、現在のところ見いだせない。
-小向太郎 “論点:忘れられる権利” 毎日新聞 2016年10月12日 東京朝刊 *2
このような的を射た指摘があるように根本的な問題を検証せず、言葉だけが一人歩きするような拡大解釈をするのも考えものである。
法的問題全般
法的問題に関わる削除を検討すべき基準は、「削除の方針#ケース B: 法的問題がある場合」にまとめられている。また、法的問題全般の扱いについては、カテゴリ「ウィキペディアと法律」も参照されたし。

記事の削除が行われる手順

即時削除

  • 権限保持者独自の裁量による削除。「即時削除の方針」では、各基準において対象となる記事を「管理者および削除者はページを見たその場で削除することができます。」とされている。
  • 一般利用者による即時削除テンプレートの貼り付け。テンプレートが貼られた記事は、「即時削除対象のページ」に一覧表示され、妥当と判断した権限保持者が裁量によって削除する。
即時削除テンプレートについては、権限保持者が対処に躊躇したり却下したケースに限らず、一般利用者が即時削除の方針の適用には無理があると判断したり、単に不服があるだけで誰でも剥がすことが可能である。このことから、しばしば削除依頼提出による審議を求められるケースが見られる。即時削除が妥当と判断されると大概は1日以内に対処されている。対処が遅れているだけで1日以上放置されるケースはあまりなく、審議を要するなどの理由により権限保持者がテンプレートを剥がすことで、一旦は却下することが多い。なお、原則として特定の権限保持者に対し個人的な依頼をすることはできない。プライバシーを考慮して水面下で相談に応じることもあるが、法的リスクを伴う外部からの問い合わせには「OTRS」で対応している。

削除依頼提出による審議

  • 対象となる記事に削除依頼テンプレートを貼り付けるなど、依頼の基本手順に従って提出、審議が始まる。依頼不備等の指摘も含めて簡潔な投票理由を添えた賛否の投票が行われる。
  • 審議には参加資格が定められている。依頼者票以外に1から2票、全体の3/4(まれに2/3)以上の賛成票と正当かつ合理的な理由があれば、通常は1週間から1か月程度で削除される。
  • 終了判定を行う権限保持者が躊躇するほど賛否が拮抗していたり、一定期間を経ても結論を急ぐほどの判断材料が明確にならないケースは、長期積み残し案件としてまとめられる。
前述した即時削除テンプレートとは違い、削除依頼テンプレートを剥がすことは審議妨害にあたるので区別しなければならない。
著作権関連では即時削除の対象になるケースもあるが、対象外となるプライバシーに関わる内容は、他の理由(「雪玉条項」とされる)をもって権限保持者の裁量で対処できなければ、審議が欠かせない削除依頼の提出が必要になる。この場合、審議の場では対象となる記事名や具体的な内容を伏せたり、リンク先の提示を工夫するなど慎重さが求められるが、深刻な問題が確認されれば緊急案件として速やかに対処される。
ちなみに、「調査投票の方法」では、「ウィキペディアは多数決主義ではありません。通常、投票は良くないものと考えられています(投票は邪悪なもの及び投票が全てではないWikipedia:投票は議論の代用とはならないを参照)。」と述べられているが、とにかく随所でウィキペディアは多数決主義ではないことが強調されている(「合意形成」も参照されたし)。よって、権限保持者は「票を数えているだけではない」とのスタンスをとっている。

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